Congratulations on your Graduation
テーマ:ナケタはなし
2010年03月19日 01時00分
176 :彼氏いない歴774年:2010/03/05(金) 23:46:50 ID:6p2xs7ay
今日誕生日と卒業発表だった。
姉から誕生日と卒業祝いにクッキーの詰め合わせのバスケットをもらった。
小腹が空いたのでクッキー食べようとおもって今開けてみたら
クッキーの間に隠れて9万円と「せんべつ 初任給までの生活費に」と書かれた付箋が入っていた。
姉の字で「Congratulations on your Graduation!!」と書かれた
メッセージカードの裏には小さな文字で「新環境での活躍を祈る」と。
これを書いてる今も涙が止まらない。
自分だって塾のバイトでたいした給料もらってるわけじゃないくせに。
遠くて何も知らない土地へ行く不安とかはじめて社会に出る恐怖、
ほかの人と比較して「私なんか」って思ったりして鬱になってたけど、もう甘えない。
仕事一生懸命がんばってちゃんと自立して、恩を返せるような人間になります。
頭悪いし、努力しないし、人付き合い下手で友達もいないしこんなどうしようもない人間だけど、
いつも何も言わずとも私の全てを理解してくれて、
私のことを本気で考えてくれるあなたがいるから、私は生きていけます。
いつもいつもありがとう。
今日誕生日と卒業発表だった。
姉から誕生日と卒業祝いにクッキーの詰め合わせのバスケットをもらった。
小腹が空いたのでクッキー食べようとおもって今開けてみたら
クッキーの間に隠れて9万円と「せんべつ 初任給までの生活費に」と書かれた付箋が入っていた。
姉の字で「Congratulations on your Graduation!!」と書かれた
メッセージカードの裏には小さな文字で「新環境での活躍を祈る」と。
これを書いてる今も涙が止まらない。
自分だって塾のバイトでたいした給料もらってるわけじゃないくせに。
遠くて何も知らない土地へ行く不安とかはじめて社会に出る恐怖、
ほかの人と比較して「私なんか」って思ったりして鬱になってたけど、もう甘えない。
仕事一生懸命がんばってちゃんと自立して、恩を返せるような人間になります。
頭悪いし、努力しないし、人付き合い下手で友達もいないしこんなどうしようもない人間だけど、
いつも何も言わずとも私の全てを理解してくれて、
私のことを本気で考えてくれるあなたがいるから、私は生きていけます。
いつもいつもありがとう。
全員で泣きながら
テーマ:ナケタはなし
2010年03月18日 23時00分
346 名前:大人になった名無しさん[]投稿日:2006/11/04(土) 07:11:54
阪神大震災のとき、同じ学年で6人が亡くなった。
翌年、俺たちは6人の遺影を抱いて、卒業式を迎えた。そして、卒業証書の授与。
最初に、生き残った生徒への授与があり、続いて、亡くなった6人への授与。
亡くなった生徒には本来、授与されないのだが、校長の判断で特別に授与されることに。
6人の名前が一斉に呼ばれ、保護者or親戚(保護者も亡くなっている場合)と一緒に、
亡くなった生徒と生前、特に仲の良かった者が遺影を抱いて、壇上に登る。
俺も1人の遺影を抱いていた。そいつの家は親子5人が全員亡くなり、
祖父母が代わりに卒業式に出席していた。
会場のあちらこちらから鳴咽や号泣が聞こえ、俺自身も壇上で泣いていた。
347 名前:346[]投稿日:2006/11/04(土) 07:24:10
授与が終わったあと、全員で「しあわせ運べるように」を合唱。
「しあわせ運べるように」
地震にも負けない 強い心をもって、
亡くなった方々の分まで
明日を大切に生きて行こう
傷ついた神戸を 元の姿に戻そう
やわらかな春の風のような
希望を胸に
響き渡れ僕たちの歌
生まれ変わる神戸の街に
届けたい私たちの歌
しあわせ運べるように
唄い終わる頃には、泣いていない者は誰も居なかった。
阪神大震災のとき、同じ学年で6人が亡くなった。
翌年、俺たちは6人の遺影を抱いて、卒業式を迎えた。そして、卒業証書の授与。
最初に、生き残った生徒への授与があり、続いて、亡くなった6人への授与。
亡くなった生徒には本来、授与されないのだが、校長の判断で特別に授与されることに。
6人の名前が一斉に呼ばれ、保護者or親戚(保護者も亡くなっている場合)と一緒に、
亡くなった生徒と生前、特に仲の良かった者が遺影を抱いて、壇上に登る。
俺も1人の遺影を抱いていた。そいつの家は親子5人が全員亡くなり、
祖父母が代わりに卒業式に出席していた。
会場のあちらこちらから鳴咽や号泣が聞こえ、俺自身も壇上で泣いていた。
347 名前:346[]投稿日:2006/11/04(土) 07:24:10
授与が終わったあと、全員で「しあわせ運べるように」を合唱。
「しあわせ運べるように」
地震にも負けない 強い心をもって、
亡くなった方々の分まで
明日を大切に生きて行こう
傷ついた神戸を 元の姿に戻そう
やわらかな春の風のような
希望を胸に
響き渡れ僕たちの歌
生まれ変わる神戸の街に
届けたい私たちの歌
しあわせ運べるように
唄い終わる頃には、泣いていない者は誰も居なかった。
学年主任は声が低くて、男みたいで
テーマ:ナケタはなし
2010年03月18日 01時00分
72 名前:彼氏いない歴774年[sage] 投稿日:2008/03/02(日) 14:13:28 ID:TbO4kDSA
私の中学は2年になる時だけクラス替えがあったんだけど、そのクラスに馴染めなかった。
不良が多いクラスで、よく消しゴムやボールを投げつけられたり、pgrされていた。
今までそんな仕打ちを受けたことが無かった。怖くて辛くて、学校をよく休んだ。
母親には「何でやり返せないの?私がいじめられた時はやり返したのに」
「何でその位で学校休むの?私は外で頑張って働いてるのに」と言われる日々。
担任は何かしてくれるわけじゃない。
辛かったけど、内申の為にも学校に行くしかなかった。
それからは保健室登校したり、遅刻・早退・欠席を繰り返していた。
そうしたら、廊下で学年主任のA先生に声を掛けられるようになった。
A先生は50歳位の女の先生。声が低くて、男みたいな先生だった。
「よく来たね」「今日は朝から来たんだね」って笑顔で私の肩をポンと叩いてくれた。
そしてよく「いいか喪女山、休む時は上手に休みなさい」と言ってくれた。
自分にとってそれは凄くありがたかった。
3年の3学期は適応教室でお世話になった。
卒業式に出席しない子もいたんだけど、「一生に一度きりだもんなあ」と思って私は出席した。
その後の離任式で、A先生が転任することが分
74 名前:彼氏いない歴774年[sage] 投稿日:2008/03/02(日) 14:20:28 ID:TbO4kDSA
>>72の続き
その後の離任式で、A先生が転任することが分かった。
ああ本当にお別れなんだ、と思ったら涙が止まらなかった。
式が終わり、昇降口から校門まで沢山の先生が見送る中を通った。
一番校門に近い所にA先生がいた。
「おお、喪女山」とA先生は私に気がついて、強く私の腕を引っ張って抱き寄せた。
「喪女山。私はね、あんたがステージの上で卒業証書を受け取ったことが、今とっても嬉しいんだよ」
A先生はそう言って私を抱き寄せて、背中をポンポンと叩いてくれた。
A先生には感謝の気持ちでいっぱい。
あの時一番行きたかった高校に通えています。ついに今年受験生。
長々とごめんなさい。
私の中学は2年になる時だけクラス替えがあったんだけど、そのクラスに馴染めなかった。
不良が多いクラスで、よく消しゴムやボールを投げつけられたり、pgrされていた。
今までそんな仕打ちを受けたことが無かった。怖くて辛くて、学校をよく休んだ。
母親には「何でやり返せないの?私がいじめられた時はやり返したのに」
「何でその位で学校休むの?私は外で頑張って働いてるのに」と言われる日々。
担任は何かしてくれるわけじゃない。
辛かったけど、内申の為にも学校に行くしかなかった。
それからは保健室登校したり、遅刻・早退・欠席を繰り返していた。
そうしたら、廊下で学年主任のA先生に声を掛けられるようになった。
A先生は50歳位の女の先生。声が低くて、男みたいな先生だった。
「よく来たね」「今日は朝から来たんだね」って笑顔で私の肩をポンと叩いてくれた。
そしてよく「いいか喪女山、休む時は上手に休みなさい」と言ってくれた。
自分にとってそれは凄くありがたかった。
3年の3学期は適応教室でお世話になった。
卒業式に出席しない子もいたんだけど、「一生に一度きりだもんなあ」と思って私は出席した。
その後の離任式で、A先生が転任することが分
74 名前:彼氏いない歴774年[sage] 投稿日:2008/03/02(日) 14:20:28 ID:TbO4kDSA
>>72の続き
その後の離任式で、A先生が転任することが分かった。
ああ本当にお別れなんだ、と思ったら涙が止まらなかった。
式が終わり、昇降口から校門まで沢山の先生が見送る中を通った。
一番校門に近い所にA先生がいた。
「おお、喪女山」とA先生は私に気がついて、強く私の腕を引っ張って抱き寄せた。
「喪女山。私はね、あんたがステージの上で卒業証書を受け取ったことが、今とっても嬉しいんだよ」
A先生はそう言って私を抱き寄せて、背中をポンポンと叩いてくれた。
A先生には感謝の気持ちでいっぱい。
あの時一番行きたかった高校に通えています。ついに今年受験生。
長々とごめんなさい。
優秀な兄弟に挟まれて
テーマ:ナケタはなし
2010年03月17日 23時00分
135 名前: 水芭蕉(神奈川県)[sage] 投稿日:2009/06/06(土) 00:16:38.12 ID:u20vRUyt
兄弟がみんな優秀で家では俺だけが馬鹿。
小さい頃から兄貴と比較されてた。弟も優秀で立場がなかった。
高校卒業と同時に進学せずに働くと言った俺に、
おふくろはさげすんだ目で俺を睨んで口もきいてくれなくなった。
卒業式当日恥ずかしいからという理由で欠席した母親に代わり、
仕事が忙しく兄弟のいかなる学校行事にも来た事の無い親父が
来ていた。帰り道に無口な親父が言った。「親ってのは勝手な者で、
子供が生れてきた時には元気でいてくれれば他に望む事は何も
無いと思うもんだが、子供の成長と共に過度の期待をしてしまうんだな。
○○卒業おめでとう。これからも元気で頑張れ、お前は大切な俺の子
だ。」って。俺は低学歴だけどこの言葉があったから頑張れる。
兄弟がみんな優秀で家では俺だけが馬鹿。
小さい頃から兄貴と比較されてた。弟も優秀で立場がなかった。
高校卒業と同時に進学せずに働くと言った俺に、
おふくろはさげすんだ目で俺を睨んで口もきいてくれなくなった。
卒業式当日恥ずかしいからという理由で欠席した母親に代わり、
仕事が忙しく兄弟のいかなる学校行事にも来た事の無い親父が
来ていた。帰り道に無口な親父が言った。「親ってのは勝手な者で、
子供が生れてきた時には元気でいてくれれば他に望む事は何も
無いと思うもんだが、子供の成長と共に過度の期待をしてしまうんだな。
○○卒業おめでとう。これからも元気で頑張れ、お前は大切な俺の子
だ。」って。俺は低学歴だけどこの言葉があったから頑張れる。
バイク便の思い出 Tのこと
テーマ:ナケタはなし
2010年03月17日 01時00分
293 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:03:51 ID:R8iTcSEp
バイク便の同僚だったTは一言で言えば地味な男だった。
バイク好きの若い男が寄り集まってする話といえばバイクの話か女の話なっかりだったけど、
Tはガヤガヤとうるさいそんな輪の中からいつも一歩引いた位置にいて、
微笑みながらその楽しげな雰囲気を見守っている。そんな男だった。
走りの方も至って地味で、当時バイク便といえば、
信号が変わるや否や猛ダッシュで加速して車線を縫うように走るのが普通だったが、
Tは信号待ちで車の流れが止まるまでは決してすり抜けをしようとはせず、速度やブレーキ、
その他色々な面でおとなしい、まるで教習所の教官のような走りだった。
「あぶないよ。何があるかわからないし…。気をつけないと。」
そんなTのことを小バカにするやつも少なくなく、からかわれることもしばしばだったけど、
Tは怒るどころか心配そうにそう言うのだった。
Tのバイクは社用車のVTZで、いつもピカピカに磨かれていた。
自分のバイクは持っていなかった。
そんなTと俺は、会えばあいさつを交わす、その程度の仲だったんだけど、
ウチの会社にある新規の荷主がついたことで、俺とTの仲は急に深まっていったんだ。
「悪いけど頼むわ。」
俺のアパートから会社へ向かう途中にあるデザイン事務所から印刷工場へと原稿を運ぶその仕事は、
ウチの会社には珍しい早朝引取りの仕事だった。
通常の始業時間までに一仕事終えて出勤することになる俺に主任はそう言った。
悪い話じゃなかった。
なんといっても稼げるし、皆より少し先に出社してお茶の一杯でも飲んで仕事に望むのは悪くない。
そうしてその仕事が始まる最初の日、始業時間より三十分も前に会社に着いた俺が見たものは、
ガレージでVTZを洗っているTの姿だった。
294 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:04:35 ID:R8iTcSEp
「毎日早く来て単車洗ってるんですか?」
「え?いや今日は時間があるから…。」
俺の姿に少し驚いたふうだったTはそう答えた。聞けば、Tは毎日、皆よりずっと早くに出社して
自分のバイクを点検し、さらに時間が余ったら洗車もしてから仕事に望んでいるのだという。
生真面目にも程があるかもしれないが、これがプロとして本来の姿かもしれないと今でも思う。
その日から、皆が出てきてガヤガヤしだすまでホンの20分ぐらいの間、俺とTは話をするようになった。
驚いたことに、ずっと年上だと思っていたTは俺と同い年で、
さらに結婚までしていて春には子供も生まれるという。
本当に控えめな男だった。
その当時といえば、矢継ぎ早にモデルチェンジを繰り返すレーサーレプリカが俺達若者には
人気だったが、こんなのどう?とTに聞いてみても「いやあ…派手だよね。」と苦笑するだけだった。
そんな控えめで生真面目なTとの会話は、田舎から出てきた俺にとって心地の良いものだった。
俺は始業までのその時間をとても大切に思うようになり、Tとの仲も次第に深まっていった。
295 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:05:29 ID:R8iTcSEp
「ジムカーナ、やってみない?」
先輩にそう誘われたのは例の早朝仕事が始まって一ヶ月ぐらいした時だったと思う。
「女の子と遊ぶよりたのしいよお。」
その頃少しずつ巷に浸透しだしたこの競技を、安全運転技術講習と銘打って各メーカーが催すことが
増えてきたころだった。女の子と遊ぶより楽しいかどうかははなはだ疑問だったが、興味はあったし、
俺とTは参加することにした。
太っ腹にも社用車での参加がOKで、まあ多少の転倒は大目にみるとのことだった。
「でも壊すなよ。」
主任から横槍が入った。
そして当日、使われていない廃教習所をパイロンで仕切ったコースに
数名のインストラクターを迎えてイベントは始まった。
「女の子と遊ぶより…」と言っていた先輩がちゃっかり女の子を乗せてきていたりして、
なんだかなあという感じだったが、皆一日中バイクに乗っているだけあって
それなりに自信がある奴ばかり、意気込んで挑むことになった。
296 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:06:23 ID:R8iTcSEp
「あれ、あれれ。」
お約束だが、この地味な競技はやってみるととてつもなく難しかった。
かなり甘めのコースになっていたはずだが、そこここでパイロンを倒したり、
コースをオーバーしたり、まともに走りきるには止まるような速度でよちよち走る
しかなく、インストラクターのように華麗な走りなんてとてもという感じだった。
そんなこんなで午前中は終わり、午後から一人ずつタイムアタックが行われる事になった。
俺はといえば、スラロームで派手な滑りゴケをやらかしてヤンヤの喝采を浴びる体たらくだった。
Tの出走順だった。
相変わらず午前中は地味に過ごしていて、ハッキリ言って誰も注目してなかった。
あそこは2速でとか、リアブレーキがどうとか、
そういう自分達の走りについて偉そうに語り合っているだけで、誰もTのことを見ていなかった。
297 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:07:16 ID:R8iTcSEp
「ヴァン!」
いきなり鳴り響いた甲高いエンジン音に誰もが振り向いた。
地面にブラックマークを残して、
リアサスを深く沈めたTのVTZが猛然と加速していくところだった。
最初のパイロンに向かって、
悲鳴をあげるフロントタイヤをいなしながら、フォークをフルダイブさせてブレーキング。
ペタリとバイクを寝かせてパイロンをクリアし、
次のセクションへ向けて猛然と加速していくTとVTZ。
「・・・・」
俺達はポカーンと口をあけたままTとVTZを見ているしかなかった。
「え…どゆこと?」
うろたえている間にも、Tはエンジン音をリズミカルに響かせながらセクションを次々にクリアしていく。
何がなんだかわからなかった。
Tが叩き出したタイムは、インストラクターが出したタイムと一秒ぐらいしか違わなかった。
「いやーTさんと私の差はバイクの差だけですね。脱帽です。」
インストラクターはそう言って甲を脱いだ。
確かに。
完全ノーマルのTのVTZに比べて、
インストラクターのバイクはあきれるほどフォークを突き出して
キャスターを立てた完全ジムカーナ仕様のブロス600。
もしかしたらTの方が早いんでは…と失礼ながら思ってしまっても仕方のない状況だった。
Tは皆に質問攻めに遭っていた。
「いやあ…少しやったことあるんですよ…。」
Tは頭を掻きながら要領を得ない回答を繰り返していた。
298 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:08:24 ID:R8iTcSEp
翌日、俺は勇んで仕事に出かけた。聞きたいことは山ほどあった。
Tの口から語られた、Tのこれまでの人生は意外なものだった。
小さな頃から親に薦められてポケバイを始め、ミニバイクへとステップした後、
最終的にはTZ125で地方選を戦うところまでいったのだという。
さらに、免許は持っていたものの、
路上に出たのは二十歳を過ぎてからで、街中は怖くて仕方ないと言った。
「え?あんなレースのほうが怖いんじゃないの?」
俺はありきたりの疑問を口にした。
Tによれば、それなりの技量と良識をもったライダーがルールに則って行うレースよりも、
どんな奴が何をするかわからない街中の方が怖いのだという。
にわかには理解しがたい話ではあったが、
Tのおとなしい走りもそういうちゃんとした理由があったのだと納得できる部分もあった。
質問ついでに、俺は前から思っていた疑問を口にした。
「ねえ、Tにはどうしてスパーダ回ってこないの?」
Tは同い年だが俺よりずっと古株で、俺にスパーダが回ってきているのにTには旧式のVTZ、
おかしな話だった。
299 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:09:07 ID:R8iTcSEp
「あ…えっとね、乗り換えるように会社に言われてたんだけど、断ったんだ。」
Tはなんだか含みのある言い方をした。
「どうして?スパーダ気に入らないの?」
「あ、違う違う、えっと、そのね、買おうと思って…。」
Tは照れくさそうに頭を掻いた。
「最初にスパーダ来た日にね、みんなで乗ったじゃない?
あの日僕も乗ったんだけど、ああいいな、欲しいなって思って。
それで、せっかくだから楽しみにとっておきたくて」
「楽しみ?」
「あのね、初めてなんだ、バイク買うの、
ポケバイとミニバイクは親が買ってくれたし、TZはチームがヤマハの
系列だったから、だから、自分で選んでバイク買うの初めてなんだ。」
赤面しながらそう語るTを俺はポカーンと見つめた。
あれ程のテクニックを持っていて、憧れのレースの世界からやって来たTが、
実は自分のバイクを持ったことがない。
そのことも衝撃だったが、そんなTが初めて選ぶバイクがスパーダ。
俺はこみ上げる嬉しさを隠せずに言った。
「え?ええと、でも、物足りなくない?Tぐらい乗れるんだったら、もっとこんなのとか…。」
俺は転がしてあったバイク雑誌の表紙を指さして言った。VFRやFZRが表紙に踊っていた。
「うん。かっこいいけどね。街には街のバイクがあると思うんだ。」
Tはこともなげにそう言った。俺はなんだか嬉しかった。
300 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:10:14 ID:R8iTcSEp
「あ、じゃあ次のジムカーナはスパーダだね。インストラクターに勝っちゃうんじゃない?」
Tがスパーダでジムカーナに出る。それはささやかなレーシングファンタジーだった。
スポーツに「たられば」話は無意味でしかないけど、それでも妄想してしまうのが人情ってもんだ。
あの時もっと戦闘力の高いバイクにTが乗っていれば…
俺達の間でそれは常に盛り上がる話のネタで、実際、
次のジムカーナには誰かのレプリカにTを乗せようという計画が密かに進んでいたほどだった。
「でさ、どうなの?自信ある?」
興奮してそう聞く俺に、Tは困ったように答えた。
「うーん、やってみないとわからないよね。でもあの人達、本当に上手いよ。それに、」
一度黙って、少し間をおいてから
「あの時も本気じゃなかったと思うんだ。」
おや?俺はTの目に、少しだけだけど闘志を見たような気がした。
意外と熱い面も持ち合わせているんだなと俺はそのときそう思った。
だけど、本当に残念なことに、そのファンタジーは実現しないままになってしまう。
思いもかけない悪夢のような災難が、Tを襲うことになるからだった。
それは、春が来てTに待望の赤ちゃんが生まれ、
Tと可愛い奥さんにささやかなお祝いをした嬉しい春が過ぎて、
じめじめした梅雨の空が少しずつやってこようとしている6月の初めのことだった。
301 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:10:58 ID:R8iTcSEp
「危ないな…。」
Tはそのとき最後の仕事を終えて会社に戻るところだった。流れの速い高架道路の左車線。
前を走る紺色のBMWの様子がおかしかった。車線こそはみ出さないものの、フラフラと方向が
定まらず、前車との間隔に関わらずに速度が上下して、居眠りかもしれなかった。
「電話か…。」
リアガラス越しに見える運転者の右手に受話器らしきものが握られ、
頭がときおりカタカタと震える。
当時はまだ珍しかった自動車電話で談笑しているらしかった。
早めに前に出てしまったほうがいい。
Tはそう判断した。幸いこの車線はまもなく側道に降りていく。
そしたら速度も落ちるだろうし、
何よりその側道は幅が広く、左側に軽自動車一台分ほどの余裕がある。
側道にさしかかり、車の流れが遅くなった。
「よし。」
TはVTZのフロントをBMWの左側にすべりこませた。
「すり抜けは車の流れが信号で止まってから」
その日、Tは自分に課していたルールをほんの少し破ってしまった。
302 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:11:55 ID:R8iTcSEp
「わざとぶつけたようにしか見えなかった。」
警察が探し出した目撃者の一人だったタクシーの運転手は言った。
TがBMWの脇に入った途端、BMWは急激に進路を変え、TとVTZを側壁に叩きつけた。
「!!!!」
突然側壁に叩きつけられたTは、左座席に座り、ハンドルにしがみつく若い男の顔を見た。
「ハンドルを戻せ!」
言葉にならなかったかもしれないが、確かにそう叫んだとTは後に言った。
が、パニックで硬直した男は、その姿勢で固まったままTを側壁に押しつけ続けた。
全身に激痛が走り、意識が薄れていく。
真っ赤な血をほとばしらせながら、ガリガリとコンクリートに削られる自分の左足を見ながら、
Tは気を失った。
真相はこうだった。
あろうことか電話で談笑しながら男は空調のスイッチを操作しようと左手を伸ばし、
結果として両手をハンドルから離してしまう。
さらには身をかがめた時に手放しのハンドルに肩が当たり、大きく左にハンドルを切ってしまう。
それでもTに気付いた時に減速なりハンドルを戻すなりすれば、
あるいはTの怪我はそんなにひどくならなかったかもしれない。
しかし、男は肩でハンドルを押した無様な格好のまま硬直し、Tを側壁に押し付け続けたのだった。
馬鹿げている。そうとしか言いようがなかった。
303 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:15:35 ID:R8iTcSEp
「左下肢切断」
それがTに施された「治療」だった。Tの膝から下は永遠に失われてしまったんだ。
間もなくして、初めての示談の席で出向いた社長と主任を前に、
男は父親には黙っていてくれの一点張りで、だだの一言も謝罪の言葉を発しなかった。
業を煮やした社長は男をしたたかに殴りつけ、うろたえながら
警察沙汰になったら示談がと耳打ちする主任を尻目に、床に這いつくばる男に向かってこう言った。
「警察ぅ??誰にも言えねーよあ!オトーチャンにバレちまうもんな!」
虫けらを見るような目だったと主任は言った。
激慌しているように見えて、そういう計算高さは社長の怖いところだとも。
その翌日、顔をぱんぱんに腫らして、
父親だという年配の男に首根っこを引っつかまれて、Tの入院先に男は謝罪に訪れた。
とある企業の社長だという父親は、息子の不始末に深々と頭を下げた。
どこまでも無様なその男は、社長に殴られたことを父親に泣きつき、
結果として父の逆鱗に触れることになったのだった。
304 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:19:08 ID:R8iTcSEp
しかしいくら謝られたところで、Tの脚が戻るわけじゃなかった。
唯一の救いは、今回の件に関して社長が出来るだけの施しをTにしたことだった。
バイクに乗れないTを内勤の配車係として新たに採用し、
自身が保有する不動産の中から手頃なマンションの一室をTに格安で貸し出すことにした。
「おまえらライダーほど頑張りがすぐに反映したりはしないが、マジメにやれば確実に昇給する。
Tなら大丈夫だ」
と主任は言った。
今回の件で支払われる慰謝料と障害年金、そして社長の施しによって、
少なくともTと大切な家族が路頭に迷うことだけはなさそうだった。
そうは言っても、このことが俺達に与えた衝撃はとてつもなく大きかった。
「Tでさえも、交通事故のリスクをゼロにはできなかった」
考えてみたら当たり前のことだが、特に俺にはショックだった。
あれほど慎重で、しかも確実なテクニックを持ったTでさえも…。
俺は次第に疑心暗鬼になり、街中でバイクに乗ることが怖くなった。
頼りない筏でふらふらと波間をさまようような不安がどんどん大きくなっていき、
Tが退院して、痛々しい姿を目の当たりにすることでそれはさらに大きくなった。
もう限界だった。俺は会社を辞める決心をした。
305 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:22:31 ID:R8iTcSEp
「あ、下まで送っていくよ。」
挨拶を済ませ、最後の給料を受け取った俺に、Tはそう言いながらひょっこりと立ち上がった。
松葉杖をつきながら歩くTの歩調に合わせて、俺達はゆっくりと歩いた。
「もう少ししたら義足ができてくるから、そうしたら杖無しでも歩けるみたい。」
でもバイクは乗れないよな…そう言いかけて俺は言葉を飲み込んだ。当たり前だ。
「じゃ行くわ」
ヘルメットを被りながら俺は言った。切なくてTのほうをまともに見れない。
「うん。あの、気をつけてね。」
お前もなと言いかけて俺はまた言葉を飲み込む。
「ああ。元気でな。」
街路樹に寄りかかって、いつまでも手を振るTの姿が、ミラーの中で小さくなっていく。
すまないT。俺は弱虫だ。
一番つらいのはお前のはずなのに、こうして俺が去れば、お前が傷つくのはわかっているのに、
俺はお前の前から逃げようとしている。
俺はヘルメットの中でわんわん泣いた。
それから俺はバイクを売り払い、
手元に残ったわずかな金を自転車に替え、次に決まっていた倉庫作業の仕事への通勤に使った。
街を行くバイクをどこか縁遠い存在として眺めるようになり、20年近くが過ぎた。
306 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:25:16 ID:R8iTcSEp
バイクのことを考えると、テンションがあがってしまって夜も眠れない。
そんな青春を過ごした俺がそんなふうになるなんて思いもしなかった。
今こうして生きているんだから、それは間違いではなかったんだろうと、そう考えることもあるけど。
「会社たたむことになってな、スパーダ一台要らないか?」
主任から電話をもらったあの夜、ひとしきり思い出話に花が咲いた後、俺は思い切って聞いた。
「あの主任…Tは、Tはまだ会社に居ますか?」
「ん?おお、アイツ配車課長だぞ、
ええと、さっきまでいたんだけどなあ…おーい!Tいないかなー?」
遠くで女性の声がした。
「あ、さっきバイクの音がしたんで出てったと思いまーす。」
え?
「あ、さっきバイクの音がしたんで出てったと思いまーす。」
ええええ!?
「おーすまん。さっきまでいたんだけ…」
主任の言葉をさえぎって俺は聞いた
「あの、あの主任、Tは、Tはバイクに乗ってるんですか?」
307 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:28:15 ID:R8iTcSEp
「ん?おお、最近なんだけどな、でっかいスクーターあるだろ?最近流行の。
あれ、俺も知らなかったんだけど、試験受けて合格すれば義足でも乗れるのな。
そんでヤマハの、何つったっけ?でっかいの。」
「T-MAXですよ。」
隣で若い男の声がした。
「おお、それそれ、500だか600だかのやつ。あれに乗ってさ。
そんでやっぱアイツ上手いのな。
ついこないだジムカーナに出てな、えーと、なんとかってクラスに一発で上がったんだよな。」
「C1クラスですよ。」
また若い男。
「おお、それそれC1。なかなかなれないんだってな。」
Tは会社がつぶれた後、大手のバイク便会社の配車係に内定していること、
ジムカーナの結果によってどこかナメられがちだったTは
若手の羨望を一心に集めるようになったことなんかを主任は熱心に語ってくれたが、
正直、上の空だった。
308 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:32:22 ID:R8iTcSEp
「ははっ、あはははは、あっはははは!」
受話器を置いてから、俺は声を上げて笑った。こんなに大声で笑うのは久しぶりだ。
心配して嫁が様子を見に来たが、かまうもんか。なんだったらこれから夜の街に繰り出して、
誰彼構わずにこのことを吹いてまわりたいぐらいだ。
何だって?スクーター?T-MAXだって?
そうか、そうなのかT。
ジムカーナで、矢のように疾駆するお前とT-MAXを見て、
ご自慢のスーパースポーツとやらで乗りつけた若造どもが、口をアングリあけて見ているんだ。
街中で、流れにピタリと沿って走るお前の脇を、
バカスカうるさい半キャップの馬鹿がこれ見よがしに抜いていっても、優しいお前は怒るどころか、
心配そうな目でそいつが走り去るのを見ているんだ。事故に遭いやしないかなって。
そうだな?そうなんだろT。
俺は馬鹿だ。本当に馬鹿だ。
どうしてあのとき、お前が二度とバイクに乗れないなんて思い込んだんだ。
そうだよ。
お前なら足の一本ぐらい無かったって、誰よりも上手く乗れるさ。決まってるじゃないか。
なあT。
俺は今でも、どんな顔してお前に会ったらいいかわかんねーよ。俺のことなんて覚えてないかもな。
だけどもう一度、あのとき逃げたバイクに、もう一度乗ってみようと思う。
そんな俺が、もう一度バイクに乗るなら、それはやっぱりスパーダしかない。
お前だってそう思うだろ?
309 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:38:53 ID:R8iTcSEp
長文読んでくれた人、本当にありがとう。俺の戯言はこれで終わりです。
俺みたいにスパーダが出た当時に現役で乗っていた人なら、
この地味なバイクが本当に愛され続けたことが今なら実感できると思う。
バブルの狂乱に明け暮れた派手な時代に、ひっそりと産み落とされた良心。
スパーダはそんなバイクだと思う。
何かと批判されがちなあの時代の喧騒、それでも誠実に生きようとした人達。
俺がスパーダを見るとき、そういったことを思い出さずにはいられないんだな。
バイク便の同僚だったTは一言で言えば地味な男だった。
バイク好きの若い男が寄り集まってする話といえばバイクの話か女の話なっかりだったけど、
Tはガヤガヤとうるさいそんな輪の中からいつも一歩引いた位置にいて、
微笑みながらその楽しげな雰囲気を見守っている。そんな男だった。
走りの方も至って地味で、当時バイク便といえば、
信号が変わるや否や猛ダッシュで加速して車線を縫うように走るのが普通だったが、
Tは信号待ちで車の流れが止まるまでは決してすり抜けをしようとはせず、速度やブレーキ、
その他色々な面でおとなしい、まるで教習所の教官のような走りだった。
「あぶないよ。何があるかわからないし…。気をつけないと。」
そんなTのことを小バカにするやつも少なくなく、からかわれることもしばしばだったけど、
Tは怒るどころか心配そうにそう言うのだった。
Tのバイクは社用車のVTZで、いつもピカピカに磨かれていた。
自分のバイクは持っていなかった。
そんなTと俺は、会えばあいさつを交わす、その程度の仲だったんだけど、
ウチの会社にある新規の荷主がついたことで、俺とTの仲は急に深まっていったんだ。
「悪いけど頼むわ。」
俺のアパートから会社へ向かう途中にあるデザイン事務所から印刷工場へと原稿を運ぶその仕事は、
ウチの会社には珍しい早朝引取りの仕事だった。
通常の始業時間までに一仕事終えて出勤することになる俺に主任はそう言った。
悪い話じゃなかった。
なんといっても稼げるし、皆より少し先に出社してお茶の一杯でも飲んで仕事に望むのは悪くない。
そうしてその仕事が始まる最初の日、始業時間より三十分も前に会社に着いた俺が見たものは、
ガレージでVTZを洗っているTの姿だった。
294 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:04:35 ID:R8iTcSEp
「毎日早く来て単車洗ってるんですか?」
「え?いや今日は時間があるから…。」
俺の姿に少し驚いたふうだったTはそう答えた。聞けば、Tは毎日、皆よりずっと早くに出社して
自分のバイクを点検し、さらに時間が余ったら洗車もしてから仕事に望んでいるのだという。
生真面目にも程があるかもしれないが、これがプロとして本来の姿かもしれないと今でも思う。
その日から、皆が出てきてガヤガヤしだすまでホンの20分ぐらいの間、俺とTは話をするようになった。
驚いたことに、ずっと年上だと思っていたTは俺と同い年で、
さらに結婚までしていて春には子供も生まれるという。
本当に控えめな男だった。
その当時といえば、矢継ぎ早にモデルチェンジを繰り返すレーサーレプリカが俺達若者には
人気だったが、こんなのどう?とTに聞いてみても「いやあ…派手だよね。」と苦笑するだけだった。
そんな控えめで生真面目なTとの会話は、田舎から出てきた俺にとって心地の良いものだった。
俺は始業までのその時間をとても大切に思うようになり、Tとの仲も次第に深まっていった。
295 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:05:29 ID:R8iTcSEp
「ジムカーナ、やってみない?」
先輩にそう誘われたのは例の早朝仕事が始まって一ヶ月ぐらいした時だったと思う。
「女の子と遊ぶよりたのしいよお。」
その頃少しずつ巷に浸透しだしたこの競技を、安全運転技術講習と銘打って各メーカーが催すことが
増えてきたころだった。女の子と遊ぶより楽しいかどうかははなはだ疑問だったが、興味はあったし、
俺とTは参加することにした。
太っ腹にも社用車での参加がOKで、まあ多少の転倒は大目にみるとのことだった。
「でも壊すなよ。」
主任から横槍が入った。
そして当日、使われていない廃教習所をパイロンで仕切ったコースに
数名のインストラクターを迎えてイベントは始まった。
「女の子と遊ぶより…」と言っていた先輩がちゃっかり女の子を乗せてきていたりして、
なんだかなあという感じだったが、皆一日中バイクに乗っているだけあって
それなりに自信がある奴ばかり、意気込んで挑むことになった。
296 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:06:23 ID:R8iTcSEp
「あれ、あれれ。」
お約束だが、この地味な競技はやってみるととてつもなく難しかった。
かなり甘めのコースになっていたはずだが、そこここでパイロンを倒したり、
コースをオーバーしたり、まともに走りきるには止まるような速度でよちよち走る
しかなく、インストラクターのように華麗な走りなんてとてもという感じだった。
そんなこんなで午前中は終わり、午後から一人ずつタイムアタックが行われる事になった。
俺はといえば、スラロームで派手な滑りゴケをやらかしてヤンヤの喝采を浴びる体たらくだった。
Tの出走順だった。
相変わらず午前中は地味に過ごしていて、ハッキリ言って誰も注目してなかった。
あそこは2速でとか、リアブレーキがどうとか、
そういう自分達の走りについて偉そうに語り合っているだけで、誰もTのことを見ていなかった。
297 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:07:16 ID:R8iTcSEp
「ヴァン!」
いきなり鳴り響いた甲高いエンジン音に誰もが振り向いた。
地面にブラックマークを残して、
リアサスを深く沈めたTのVTZが猛然と加速していくところだった。
最初のパイロンに向かって、
悲鳴をあげるフロントタイヤをいなしながら、フォークをフルダイブさせてブレーキング。
ペタリとバイクを寝かせてパイロンをクリアし、
次のセクションへ向けて猛然と加速していくTとVTZ。
「・・・・」
俺達はポカーンと口をあけたままTとVTZを見ているしかなかった。
「え…どゆこと?」
うろたえている間にも、Tはエンジン音をリズミカルに響かせながらセクションを次々にクリアしていく。
何がなんだかわからなかった。
Tが叩き出したタイムは、インストラクターが出したタイムと一秒ぐらいしか違わなかった。
「いやーTさんと私の差はバイクの差だけですね。脱帽です。」
インストラクターはそう言って甲を脱いだ。
確かに。
完全ノーマルのTのVTZに比べて、
インストラクターのバイクはあきれるほどフォークを突き出して
キャスターを立てた完全ジムカーナ仕様のブロス600。
もしかしたらTの方が早いんでは…と失礼ながら思ってしまっても仕方のない状況だった。
Tは皆に質問攻めに遭っていた。
「いやあ…少しやったことあるんですよ…。」
Tは頭を掻きながら要領を得ない回答を繰り返していた。
298 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:08:24 ID:R8iTcSEp
翌日、俺は勇んで仕事に出かけた。聞きたいことは山ほどあった。
Tの口から語られた、Tのこれまでの人生は意外なものだった。
小さな頃から親に薦められてポケバイを始め、ミニバイクへとステップした後、
最終的にはTZ125で地方選を戦うところまでいったのだという。
さらに、免許は持っていたものの、
路上に出たのは二十歳を過ぎてからで、街中は怖くて仕方ないと言った。
「え?あんなレースのほうが怖いんじゃないの?」
俺はありきたりの疑問を口にした。
Tによれば、それなりの技量と良識をもったライダーがルールに則って行うレースよりも、
どんな奴が何をするかわからない街中の方が怖いのだという。
にわかには理解しがたい話ではあったが、
Tのおとなしい走りもそういうちゃんとした理由があったのだと納得できる部分もあった。
質問ついでに、俺は前から思っていた疑問を口にした。
「ねえ、Tにはどうしてスパーダ回ってこないの?」
Tは同い年だが俺よりずっと古株で、俺にスパーダが回ってきているのにTには旧式のVTZ、
おかしな話だった。
299 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:09:07 ID:R8iTcSEp
「あ…えっとね、乗り換えるように会社に言われてたんだけど、断ったんだ。」
Tはなんだか含みのある言い方をした。
「どうして?スパーダ気に入らないの?」
「あ、違う違う、えっと、そのね、買おうと思って…。」
Tは照れくさそうに頭を掻いた。
「最初にスパーダ来た日にね、みんなで乗ったじゃない?
あの日僕も乗ったんだけど、ああいいな、欲しいなって思って。
それで、せっかくだから楽しみにとっておきたくて」
「楽しみ?」
「あのね、初めてなんだ、バイク買うの、
ポケバイとミニバイクは親が買ってくれたし、TZはチームがヤマハの
系列だったから、だから、自分で選んでバイク買うの初めてなんだ。」
赤面しながらそう語るTを俺はポカーンと見つめた。
あれ程のテクニックを持っていて、憧れのレースの世界からやって来たTが、
実は自分のバイクを持ったことがない。
そのことも衝撃だったが、そんなTが初めて選ぶバイクがスパーダ。
俺はこみ上げる嬉しさを隠せずに言った。
「え?ええと、でも、物足りなくない?Tぐらい乗れるんだったら、もっとこんなのとか…。」
俺は転がしてあったバイク雑誌の表紙を指さして言った。VFRやFZRが表紙に踊っていた。
「うん。かっこいいけどね。街には街のバイクがあると思うんだ。」
Tはこともなげにそう言った。俺はなんだか嬉しかった。
300 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:10:14 ID:R8iTcSEp
「あ、じゃあ次のジムカーナはスパーダだね。インストラクターに勝っちゃうんじゃない?」
Tがスパーダでジムカーナに出る。それはささやかなレーシングファンタジーだった。
スポーツに「たられば」話は無意味でしかないけど、それでも妄想してしまうのが人情ってもんだ。
あの時もっと戦闘力の高いバイクにTが乗っていれば…
俺達の間でそれは常に盛り上がる話のネタで、実際、
次のジムカーナには誰かのレプリカにTを乗せようという計画が密かに進んでいたほどだった。
「でさ、どうなの?自信ある?」
興奮してそう聞く俺に、Tは困ったように答えた。
「うーん、やってみないとわからないよね。でもあの人達、本当に上手いよ。それに、」
一度黙って、少し間をおいてから
「あの時も本気じゃなかったと思うんだ。」
おや?俺はTの目に、少しだけだけど闘志を見たような気がした。
意外と熱い面も持ち合わせているんだなと俺はそのときそう思った。
だけど、本当に残念なことに、そのファンタジーは実現しないままになってしまう。
思いもかけない悪夢のような災難が、Tを襲うことになるからだった。
それは、春が来てTに待望の赤ちゃんが生まれ、
Tと可愛い奥さんにささやかなお祝いをした嬉しい春が過ぎて、
じめじめした梅雨の空が少しずつやってこようとしている6月の初めのことだった。
301 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:10:58 ID:R8iTcSEp
「危ないな…。」
Tはそのとき最後の仕事を終えて会社に戻るところだった。流れの速い高架道路の左車線。
前を走る紺色のBMWの様子がおかしかった。車線こそはみ出さないものの、フラフラと方向が
定まらず、前車との間隔に関わらずに速度が上下して、居眠りかもしれなかった。
「電話か…。」
リアガラス越しに見える運転者の右手に受話器らしきものが握られ、
頭がときおりカタカタと震える。
当時はまだ珍しかった自動車電話で談笑しているらしかった。
早めに前に出てしまったほうがいい。
Tはそう判断した。幸いこの車線はまもなく側道に降りていく。
そしたら速度も落ちるだろうし、
何よりその側道は幅が広く、左側に軽自動車一台分ほどの余裕がある。
側道にさしかかり、車の流れが遅くなった。
「よし。」
TはVTZのフロントをBMWの左側にすべりこませた。
「すり抜けは車の流れが信号で止まってから」
その日、Tは自分に課していたルールをほんの少し破ってしまった。
302 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:11:55 ID:R8iTcSEp
「わざとぶつけたようにしか見えなかった。」
警察が探し出した目撃者の一人だったタクシーの運転手は言った。
TがBMWの脇に入った途端、BMWは急激に進路を変え、TとVTZを側壁に叩きつけた。
「!!!!」
突然側壁に叩きつけられたTは、左座席に座り、ハンドルにしがみつく若い男の顔を見た。
「ハンドルを戻せ!」
言葉にならなかったかもしれないが、確かにそう叫んだとTは後に言った。
が、パニックで硬直した男は、その姿勢で固まったままTを側壁に押しつけ続けた。
全身に激痛が走り、意識が薄れていく。
真っ赤な血をほとばしらせながら、ガリガリとコンクリートに削られる自分の左足を見ながら、
Tは気を失った。
真相はこうだった。
あろうことか電話で談笑しながら男は空調のスイッチを操作しようと左手を伸ばし、
結果として両手をハンドルから離してしまう。
さらには身をかがめた時に手放しのハンドルに肩が当たり、大きく左にハンドルを切ってしまう。
それでもTに気付いた時に減速なりハンドルを戻すなりすれば、
あるいはTの怪我はそんなにひどくならなかったかもしれない。
しかし、男は肩でハンドルを押した無様な格好のまま硬直し、Tを側壁に押し付け続けたのだった。
馬鹿げている。そうとしか言いようがなかった。
303 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:15:35 ID:R8iTcSEp
「左下肢切断」
それがTに施された「治療」だった。Tの膝から下は永遠に失われてしまったんだ。
間もなくして、初めての示談の席で出向いた社長と主任を前に、
男は父親には黙っていてくれの一点張りで、だだの一言も謝罪の言葉を発しなかった。
業を煮やした社長は男をしたたかに殴りつけ、うろたえながら
警察沙汰になったら示談がと耳打ちする主任を尻目に、床に這いつくばる男に向かってこう言った。
「警察ぅ??誰にも言えねーよあ!オトーチャンにバレちまうもんな!」
虫けらを見るような目だったと主任は言った。
激慌しているように見えて、そういう計算高さは社長の怖いところだとも。
その翌日、顔をぱんぱんに腫らして、
父親だという年配の男に首根っこを引っつかまれて、Tの入院先に男は謝罪に訪れた。
とある企業の社長だという父親は、息子の不始末に深々と頭を下げた。
どこまでも無様なその男は、社長に殴られたことを父親に泣きつき、
結果として父の逆鱗に触れることになったのだった。
304 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:19:08 ID:R8iTcSEp
しかしいくら謝られたところで、Tの脚が戻るわけじゃなかった。
唯一の救いは、今回の件に関して社長が出来るだけの施しをTにしたことだった。
バイクに乗れないTを内勤の配車係として新たに採用し、
自身が保有する不動産の中から手頃なマンションの一室をTに格安で貸し出すことにした。
「おまえらライダーほど頑張りがすぐに反映したりはしないが、マジメにやれば確実に昇給する。
Tなら大丈夫だ」
と主任は言った。
今回の件で支払われる慰謝料と障害年金、そして社長の施しによって、
少なくともTと大切な家族が路頭に迷うことだけはなさそうだった。
そうは言っても、このことが俺達に与えた衝撃はとてつもなく大きかった。
「Tでさえも、交通事故のリスクをゼロにはできなかった」
考えてみたら当たり前のことだが、特に俺にはショックだった。
あれほど慎重で、しかも確実なテクニックを持ったTでさえも…。
俺は次第に疑心暗鬼になり、街中でバイクに乗ることが怖くなった。
頼りない筏でふらふらと波間をさまようような不安がどんどん大きくなっていき、
Tが退院して、痛々しい姿を目の当たりにすることでそれはさらに大きくなった。
もう限界だった。俺は会社を辞める決心をした。
305 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:22:31 ID:R8iTcSEp
「あ、下まで送っていくよ。」
挨拶を済ませ、最後の給料を受け取った俺に、Tはそう言いながらひょっこりと立ち上がった。
松葉杖をつきながら歩くTの歩調に合わせて、俺達はゆっくりと歩いた。
「もう少ししたら義足ができてくるから、そうしたら杖無しでも歩けるみたい。」
でもバイクは乗れないよな…そう言いかけて俺は言葉を飲み込んだ。当たり前だ。
「じゃ行くわ」
ヘルメットを被りながら俺は言った。切なくてTのほうをまともに見れない。
「うん。あの、気をつけてね。」
お前もなと言いかけて俺はまた言葉を飲み込む。
「ああ。元気でな。」
街路樹に寄りかかって、いつまでも手を振るTの姿が、ミラーの中で小さくなっていく。
すまないT。俺は弱虫だ。
一番つらいのはお前のはずなのに、こうして俺が去れば、お前が傷つくのはわかっているのに、
俺はお前の前から逃げようとしている。
俺はヘルメットの中でわんわん泣いた。
それから俺はバイクを売り払い、
手元に残ったわずかな金を自転車に替え、次に決まっていた倉庫作業の仕事への通勤に使った。
街を行くバイクをどこか縁遠い存在として眺めるようになり、20年近くが過ぎた。
306 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:25:16 ID:R8iTcSEp
バイクのことを考えると、テンションがあがってしまって夜も眠れない。
そんな青春を過ごした俺がそんなふうになるなんて思いもしなかった。
今こうして生きているんだから、それは間違いではなかったんだろうと、そう考えることもあるけど。
「会社たたむことになってな、スパーダ一台要らないか?」
主任から電話をもらったあの夜、ひとしきり思い出話に花が咲いた後、俺は思い切って聞いた。
「あの主任…Tは、Tはまだ会社に居ますか?」
「ん?おお、アイツ配車課長だぞ、
ええと、さっきまでいたんだけどなあ…おーい!Tいないかなー?」
遠くで女性の声がした。
「あ、さっきバイクの音がしたんで出てったと思いまーす。」
え?
「あ、さっきバイクの音がしたんで出てったと思いまーす。」
ええええ!?
「おーすまん。さっきまでいたんだけ…」
主任の言葉をさえぎって俺は聞いた
「あの、あの主任、Tは、Tはバイクに乗ってるんですか?」
307 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:28:15 ID:R8iTcSEp
「ん?おお、最近なんだけどな、でっかいスクーターあるだろ?最近流行の。
あれ、俺も知らなかったんだけど、試験受けて合格すれば義足でも乗れるのな。
そんでヤマハの、何つったっけ?でっかいの。」
「T-MAXですよ。」
隣で若い男の声がした。
「おお、それそれ、500だか600だかのやつ。あれに乗ってさ。
そんでやっぱアイツ上手いのな。
ついこないだジムカーナに出てな、えーと、なんとかってクラスに一発で上がったんだよな。」
「C1クラスですよ。」
また若い男。
「おお、それそれC1。なかなかなれないんだってな。」
Tは会社がつぶれた後、大手のバイク便会社の配車係に内定していること、
ジムカーナの結果によってどこかナメられがちだったTは
若手の羨望を一心に集めるようになったことなんかを主任は熱心に語ってくれたが、
正直、上の空だった。
308 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:32:22 ID:R8iTcSEp
「ははっ、あはははは、あっはははは!」
受話器を置いてから、俺は声を上げて笑った。こんなに大声で笑うのは久しぶりだ。
心配して嫁が様子を見に来たが、かまうもんか。なんだったらこれから夜の街に繰り出して、
誰彼構わずにこのことを吹いてまわりたいぐらいだ。
何だって?スクーター?T-MAXだって?
そうか、そうなのかT。
ジムカーナで、矢のように疾駆するお前とT-MAXを見て、
ご自慢のスーパースポーツとやらで乗りつけた若造どもが、口をアングリあけて見ているんだ。
街中で、流れにピタリと沿って走るお前の脇を、
バカスカうるさい半キャップの馬鹿がこれ見よがしに抜いていっても、優しいお前は怒るどころか、
心配そうな目でそいつが走り去るのを見ているんだ。事故に遭いやしないかなって。
そうだな?そうなんだろT。
俺は馬鹿だ。本当に馬鹿だ。
どうしてあのとき、お前が二度とバイクに乗れないなんて思い込んだんだ。
そうだよ。
お前なら足の一本ぐらい無かったって、誰よりも上手く乗れるさ。決まってるじゃないか。
なあT。
俺は今でも、どんな顔してお前に会ったらいいかわかんねーよ。俺のことなんて覚えてないかもな。
だけどもう一度、あのとき逃げたバイクに、もう一度乗ってみようと思う。
そんな俺が、もう一度バイクに乗るなら、それはやっぱりスパーダしかない。
お前だってそう思うだろ?
309 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:38:53 ID:R8iTcSEp
長文読んでくれた人、本当にありがとう。俺の戯言はこれで終わりです。
俺みたいにスパーダが出た当時に現役で乗っていた人なら、
この地味なバイクが本当に愛され続けたことが今なら実感できると思う。
バブルの狂乱に明け暮れた派手な時代に、ひっそりと産み落とされた良心。
スパーダはそんなバイクだと思う。
何かと批判されがちなあの時代の喧騒、それでも誠実に生きようとした人達。
俺がスパーダを見るとき、そういったことを思い出さずにはいられないんだな。
バイク便の思い出 おっちゃんのこと
テーマ:ナケタはなし
2010年03月16日 23時00分
255 :バイク便の思ひ出:2010/03/04(木) 11:15:14 ID:8/dzONws
念願だったスパーダの社用車が俺に回ってきたのは、一年後ぐらいだったかな。
いいバイクなのにあんまり売れなかったせいか、ディーラーが大きく値引きをするようになって、
ウチの社用車も古いVTを順次スパーダに入れ替えている最中だった。
「とりあえず、おっちゃんとこ行って一通り診てもらってきてくれ。」
主任の言う「おっちゃん」とは、近所にある古いバイク屋の店主のことで、
うちの会社のバイクはほとんどそこでメンテを委託していた。
築何十年といった風情の古くて汚い店で、「○○輪業」といういかにも老舗っぽい看板を挙げ、
おじいさんというにはまだちと若い初老の店主が一人でやってる店だった。
俺達は某バイク漫画にあやかって
店主のことを「おっちゃん」と呼んでいて、絶大の信頼を寄せていたんだ。
たまに来る近所のおばちゃんの原付を除けば、
おっちゃんの仕事のほとんどはうちのバイクの整備で、
毎日仕事で酷使される歴代VTシリーズを何台も長年看続けたおっちゃんは、
この界隈では一番のVTマイスターだった。
薄汚れた工場の奥には何台もの部品取り用のVTが置かれ、
辺りにはエンジンやらミッションやらゴロゴロ転がっていて、
その気になれば数台組みあがるんじゃないかと思えるほどだった。
256 :バイク便の思ひ出:2010/03/04(木) 11:16:32 ID:8/dzONws
「兄さんいくつだい?へえ…うちのセガレと変わんねえな。」
大学に通っているという自慢の息子さんの話なんてしながら、
おっちゃんはテキパキとスパーダをバラしていった。
おっちゃんの手並みは本当に淀みがなくて、見てると整備なんて簡単そうだなって
つい思ってしまったもんだけど、そう簡単に出来るもんじゃないってのは
後で自分でやってみると身に染みて理解できるんだよな。
点火時期、タペット調整、キャブの同調…
おっちゃんはそういう調整に小難しいゲージなんか使わず、いつも目分量だった。
「んーこんなもんだろ。」
実際おっちゃんの「こんなもん」はいつも的確で、特に悪いところなんて無いと思ってた俺のスパーダも、一通りの調整が終わってエンジンをかけると、見違えるように静かにアイドリングを始めた。
「ふん。やっぱりこいつが一番イイな。」
ストストと軽快にアイドリングを続けるスパーダを眺めながら、おっちゃんはそう言った。
「え?このバイク、当たりってこと?」
てっきり個体差のことかと思ってそう聞き返した俺に、
おっちゃんは少し首をかしげ、やがて気付いたように言った。
「え?ああ…そういうことじゃねえよ。ええと…そうだな、アレだ。」
257 :バイク便の思ひ出:2010/03/04(木) 11:17:50 ID:8/dzONws
おっちゃんは工場の隅に転がっていた
おそらくVT-Fあたりのものだと思われる黒いエンジンを指さして、
「おめーの先輩方はよ、あのエンジンの方が馬力が出てた。
あんなふうにならねーのか?、のせかえられねーのか?
なんてよく言ってくる。そりゃできねーことはねえよ。
でも好きじゃねーな…確かに馬力でてっかもしんねーけどよ。
いつもゼイゼイ言って、あげくに変なとこが先に壊れちまう。
綺麗に終われねーんだ、エンジンがよ。気に入らねえよ。」
エンジンの中のいろんな部品がバランスよく消耗していく、
そういうエンジンが「いいエンジン」と、そういうことらしかった。
そん時は俺も若かったし、ふーんそんなもんかなって思っただけだったけど、今思えば、
2ストRZあたりと常に比較され続けたVTの悲鳴を、おっちゃんは聞いてきたのかもしれないね。
258 :夜勤明けの男:2010/03/04(木) 11:19:41 ID:8/dzONws
「それによ、何つったってカッコイイじゃねえか、コイツはよ。色もキレイだしよ。」
まだ真新しい青いタンクをパンパンと叩いておっちゃんは立ち上がった。
「ま、俺ぁちょっと気恥ずかしくて乗れねーけどよ。」
おっちゃんはそう言ってカカカと笑い。エンジンを切ってタバコに火を点けた。
おっちゃんは本当に美味そうにタバコを吸う人で、いつも遠慮なくグッと煙を吸い込むので、
タバコの先の赤い火の部分がミリミリと音を立てて進んだ。
俺は正直タバコは苦手だったけれど、おっちゃんのタバコだけはなんかイイなって思ってた。
「なあ兄さん。いつでも持ってきなよ。兄さんはこれから毎日これに乗るんだろ?
そしたらよ、わかるはずだ、なんかいつもと違う、そういうヤな感じがよ。
どこが悪いってワケじゃなくてもな。
勘違いだったらそれでもいい。とにかく持ってきてくれよな。」
「はい。」
おっちゃんのその言葉を、ちょっとした営業トークぐらいにしか思ってなかった俺は、
半年後にそれを思い知ることになるんだけど、それはまた別の話だ。
戯言連投すまん。
261 :半年後:2010/03/04(木) 12:17:04 ID:8/dzONws
「あれ?」
俺がスパーダのフロントブレーキに変な違和感を感じたのは、少し肌寒い初秋の朝だった。
効かないとか効きが悪いとかではなかったけれど、なんだか少しタッチが甘い。そんな感じだった。
「いつでも持ってこい。」
おっちゃんの言葉が少し頭をよぎったけれど、その時はまだバブルの余香が漂う頃で、
おまけに締め日とあって朝から呼び出しのポケベルが鳴り続けていた。
とてもおっちゃんの所に寄る暇は無さそうだった。
「気のせいかな…。」
俺は無理やり自分を納得させようとした。昨日うっかり枕もとのバイク雑誌を読みふけってしまって
寝不足だったし、軽く霧がでていたのでパッドがしけっているのかも…何とでも言い訳はできた。
実際目の回るような忙しさだった。まだ無線を持たせてもらっていない俺はポケベルが鳴る度に
公衆電話を探して這い回り、そうして午前中はあっという間に過ぎた。
そして違和感はやはり気のせいなんかじゃなかった。タ
ッチは少しずつだけれど確実に甘くなっていき、
日が傾き始める頃には何度かポンピングしないと手ごたえが戻らないほどに進んだ。
不安だった。俺は信号待ちの度にホース周りをキョロキョロと探し、フルード漏れを探した。
でもどこにも漏れは見つからず、リザーバーの液面も下がっていなかった。
263 :半年後:2010/03/04(木) 12:35:21 ID:8/dzONws
何度も会社に連絡しようかと迷った。
でもひっきりなしに鳴るポケベルの音を聞くと言い出せなかった。
怖かった。
とてもスピードなんて出せないし、
リアブレーキがこれほどアテにならないなんて思いもよらなかった。
結局フラフラと歩くようなスピードで会社に帰還する頃には、
フロントブレーキの手ごたえはほとんど無くなっていた。
日もすっかり暮れていたけれど、俺はおっちゃんのところへスパーダを押して駆け込んだ。
主任に頼んで店を開けておいて貰うように頼んでいたので、
おっちゃんは作業灯を点けて待っていてくれた。
「おお、ブレーキがおかしいって?診せてみな。」
いつものように飄々と、
おっちゃんはスパーダに取り付いてブレーキレバーを数回キコキコと動かした。
おっちゃんの手がピタリと凍りついたように止まった。
そしてブレーキを握ったままこっちをギロリと振り返って言った。
「お前…こんなんで今日一日走ってたのか…?」
今まで見たことのないような険しい表情と声だった。俺は思わずたじろいだ。
このときのバツの悪さは今でも忘れられない。俺はしどろもどろになって答えた。
「あ…朝はちゃんと効いてたんです。でも、どんどん効かなくなって…すいません…。」
264 :半年後:2010/03/04(木) 12:54:30 ID:8/dzONws
「なあ兄さん。俺は言ったよな、ヤな感じがしたら持ってこいって、どうして持ってこなかった?」
優しくて慕ってた学校の先生に厳しく叱られているような感じ、あんな感じだ。俺は懸命に答えた。
「ほ…本当は朝ちょっと変だなって思ったんです。けど…けど気のせいかなって…自信なくて…
今日は本当に忙しくて、それで…言い出せなくて……。」
俺はうつむいて黙ってしまった。
おっちゃんはふうと溜め息を吐くと、俺のほうに向き直って言った。
「なあ兄さん。俺はよ、アンタんとこの単車診さしてもらって十年以上になる。
自慢じゃないが単車ならどんなに壊れたって直してやる。エンジンだろうがミッションだろうがな。」
それは本当だった。
オイルを切らしてブローしたエンジンを下ろし、中古に載せ換えて翌朝にきっちり納車するなんて
ことは当たり前にやってのける人だった。
「でもな、でもな兄さん、あんたの…あんたのその……」
おっちゃんはそこまで言うと色あせたホンダのキャップを深くかぶり、きびすを返して工具を取り、作業を始めてしまった。
265 :半年後:2010/03/04(木) 13:10:45 ID:8/dzONws
最後まで言わなくても、おっちゃんの言いたかったことはいくらバカな俺でもわかった。
「お前の体は修理できねえ。命にはスペアは無えんだ。」
おっちゃんはそう言いたかったに違いなかった。
だけどそれじゃあんまり説教じみていてガラじゃないと思ったのだろう。
おっちゃんはそれきり黙ってしまった。
俺は泣きそうだった。今回の故障におそらくおっちゃんに落ち度は無い。
けどもし、自分の整備しているバイクが故障で事故を起こしたとしたら、
昔堅気のおっちゃんはどれほど気に病むだろう。
俺達が無事会社に還ってくるってことが
おっちゃんのメカニックとしてのプライドを支えているんだ。
おっちゃんだけじゃない。俺と、俺の周りの全ての人達がお互いのプライドを支えている。
そんな当たり前のことを、俺はそのときやっと理解したんだ。
「○×町の信号をダッシュで加速して、120kmまでもっていければ、
△□二丁目の信号を黄色でパスできる。」
そんな馬鹿なことを得意げに語っていた昨日までの自分を俺は本当に恥じた。
266 :半年後:2010/03/04(木) 13:30:48 ID:8/dzONws
「なあ兄さん。コイツはちっと時間かかっからよ、今日はもう帰んな。疲れたろ?
心配すんな。明日の朝までには直して届けといてやっからよ。な?」
そう言って振り向いたおっちゃんの顔はいつもの優しい顔だった。
「お願いします。」
俺は頭を下げて言った。その日はいろいろ考えてしまってあんまり眠れなかった。
翌朝出勤すると、約束通りスパーダは届いていた。
真新しいブレーキホースとマスター、キャリパーも
オーバーホールしたらしくピカピカになっていた。
マスターシリンダーの圧抜け、それが原因だった。非常に稀なことだけれど、
製造時の切り粉や研磨剤といった硬い粒子がどこかに付着して混入してしまうと、
あっというまにシリンダー内を傷つけてしまうのだということだった。
おっちゃんはあの後、もう遅かったけれどディーラーに掛け合って部品を出してもらい、
新品のマスターアッセンを一度バラして入念に洗掃し、
同じくキャリパーも洗掃したあとホースを新品に換えて組み付けたのだという。
それから俺は、ちょっとでも違和感を感じたらすぐおっちゃんの所へ行くようになった。
ただの勘違いのこともあったけど、
実際フロントハブベアリングが割れかけていたときは自分でもびっくりしたなあ。
267 :現在:2010/03/04(木) 13:41:30 ID:8/dzONws
主任からスパーダの話を持ちかけられた時、俺は無性におっちゃんに会いたくなった。
でもちょっと怖かった。だってあれから20年近く経っている。
「?ああ、おっちゃんな。えーと5,6年前かなあ、
息子さんの所へ行くから店たたむって言ってな。」
「ん?ああまだご健在のはずだよ。律儀に毎年年賀状と暑中見舞い来るんだ。
今年も来てたしな。」
おっちゃんはどうしているだろう。
可愛い孫でもひざに乗せて、美味そうにタバコを吸っているだろうか。
後半あんまりスパーダ関係なくてすまん。読んでくれた人ありがとう。
念願だったスパーダの社用車が俺に回ってきたのは、一年後ぐらいだったかな。
いいバイクなのにあんまり売れなかったせいか、ディーラーが大きく値引きをするようになって、
ウチの社用車も古いVTを順次スパーダに入れ替えている最中だった。
「とりあえず、おっちゃんとこ行って一通り診てもらってきてくれ。」
主任の言う「おっちゃん」とは、近所にある古いバイク屋の店主のことで、
うちの会社のバイクはほとんどそこでメンテを委託していた。
築何十年といった風情の古くて汚い店で、「○○輪業」といういかにも老舗っぽい看板を挙げ、
おじいさんというにはまだちと若い初老の店主が一人でやってる店だった。
俺達は某バイク漫画にあやかって
店主のことを「おっちゃん」と呼んでいて、絶大の信頼を寄せていたんだ。
たまに来る近所のおばちゃんの原付を除けば、
おっちゃんの仕事のほとんどはうちのバイクの整備で、
毎日仕事で酷使される歴代VTシリーズを何台も長年看続けたおっちゃんは、
この界隈では一番のVTマイスターだった。
薄汚れた工場の奥には何台もの部品取り用のVTが置かれ、
辺りにはエンジンやらミッションやらゴロゴロ転がっていて、
その気になれば数台組みあがるんじゃないかと思えるほどだった。
256 :バイク便の思ひ出:2010/03/04(木) 11:16:32 ID:8/dzONws
「兄さんいくつだい?へえ…うちのセガレと変わんねえな。」
大学に通っているという自慢の息子さんの話なんてしながら、
おっちゃんはテキパキとスパーダをバラしていった。
おっちゃんの手並みは本当に淀みがなくて、見てると整備なんて簡単そうだなって
つい思ってしまったもんだけど、そう簡単に出来るもんじゃないってのは
後で自分でやってみると身に染みて理解できるんだよな。
点火時期、タペット調整、キャブの同調…
おっちゃんはそういう調整に小難しいゲージなんか使わず、いつも目分量だった。
「んーこんなもんだろ。」
実際おっちゃんの「こんなもん」はいつも的確で、特に悪いところなんて無いと思ってた俺のスパーダも、一通りの調整が終わってエンジンをかけると、見違えるように静かにアイドリングを始めた。
「ふん。やっぱりこいつが一番イイな。」
ストストと軽快にアイドリングを続けるスパーダを眺めながら、おっちゃんはそう言った。
「え?このバイク、当たりってこと?」
てっきり個体差のことかと思ってそう聞き返した俺に、
おっちゃんは少し首をかしげ、やがて気付いたように言った。
「え?ああ…そういうことじゃねえよ。ええと…そうだな、アレだ。」
257 :バイク便の思ひ出:2010/03/04(木) 11:17:50 ID:8/dzONws
おっちゃんは工場の隅に転がっていた
おそらくVT-Fあたりのものだと思われる黒いエンジンを指さして、
「おめーの先輩方はよ、あのエンジンの方が馬力が出てた。
あんなふうにならねーのか?、のせかえられねーのか?
なんてよく言ってくる。そりゃできねーことはねえよ。
でも好きじゃねーな…確かに馬力でてっかもしんねーけどよ。
いつもゼイゼイ言って、あげくに変なとこが先に壊れちまう。
綺麗に終われねーんだ、エンジンがよ。気に入らねえよ。」
エンジンの中のいろんな部品がバランスよく消耗していく、
そういうエンジンが「いいエンジン」と、そういうことらしかった。
そん時は俺も若かったし、ふーんそんなもんかなって思っただけだったけど、今思えば、
2ストRZあたりと常に比較され続けたVTの悲鳴を、おっちゃんは聞いてきたのかもしれないね。
258 :夜勤明けの男:2010/03/04(木) 11:19:41 ID:8/dzONws
「それによ、何つったってカッコイイじゃねえか、コイツはよ。色もキレイだしよ。」
まだ真新しい青いタンクをパンパンと叩いておっちゃんは立ち上がった。
「ま、俺ぁちょっと気恥ずかしくて乗れねーけどよ。」
おっちゃんはそう言ってカカカと笑い。エンジンを切ってタバコに火を点けた。
おっちゃんは本当に美味そうにタバコを吸う人で、いつも遠慮なくグッと煙を吸い込むので、
タバコの先の赤い火の部分がミリミリと音を立てて進んだ。
俺は正直タバコは苦手だったけれど、おっちゃんのタバコだけはなんかイイなって思ってた。
「なあ兄さん。いつでも持ってきなよ。兄さんはこれから毎日これに乗るんだろ?
そしたらよ、わかるはずだ、なんかいつもと違う、そういうヤな感じがよ。
どこが悪いってワケじゃなくてもな。
勘違いだったらそれでもいい。とにかく持ってきてくれよな。」
「はい。」
おっちゃんのその言葉を、ちょっとした営業トークぐらいにしか思ってなかった俺は、
半年後にそれを思い知ることになるんだけど、それはまた別の話だ。
戯言連投すまん。
261 :半年後:2010/03/04(木) 12:17:04 ID:8/dzONws
「あれ?」
俺がスパーダのフロントブレーキに変な違和感を感じたのは、少し肌寒い初秋の朝だった。
効かないとか効きが悪いとかではなかったけれど、なんだか少しタッチが甘い。そんな感じだった。
「いつでも持ってこい。」
おっちゃんの言葉が少し頭をよぎったけれど、その時はまだバブルの余香が漂う頃で、
おまけに締め日とあって朝から呼び出しのポケベルが鳴り続けていた。
とてもおっちゃんの所に寄る暇は無さそうだった。
「気のせいかな…。」
俺は無理やり自分を納得させようとした。昨日うっかり枕もとのバイク雑誌を読みふけってしまって
寝不足だったし、軽く霧がでていたのでパッドがしけっているのかも…何とでも言い訳はできた。
実際目の回るような忙しさだった。まだ無線を持たせてもらっていない俺はポケベルが鳴る度に
公衆電話を探して這い回り、そうして午前中はあっという間に過ぎた。
そして違和感はやはり気のせいなんかじゃなかった。タ
ッチは少しずつだけれど確実に甘くなっていき、
日が傾き始める頃には何度かポンピングしないと手ごたえが戻らないほどに進んだ。
不安だった。俺は信号待ちの度にホース周りをキョロキョロと探し、フルード漏れを探した。
でもどこにも漏れは見つからず、リザーバーの液面も下がっていなかった。
263 :半年後:2010/03/04(木) 12:35:21 ID:8/dzONws
何度も会社に連絡しようかと迷った。
でもひっきりなしに鳴るポケベルの音を聞くと言い出せなかった。
怖かった。
とてもスピードなんて出せないし、
リアブレーキがこれほどアテにならないなんて思いもよらなかった。
結局フラフラと歩くようなスピードで会社に帰還する頃には、
フロントブレーキの手ごたえはほとんど無くなっていた。
日もすっかり暮れていたけれど、俺はおっちゃんのところへスパーダを押して駆け込んだ。
主任に頼んで店を開けておいて貰うように頼んでいたので、
おっちゃんは作業灯を点けて待っていてくれた。
「おお、ブレーキがおかしいって?診せてみな。」
いつものように飄々と、
おっちゃんはスパーダに取り付いてブレーキレバーを数回キコキコと動かした。
おっちゃんの手がピタリと凍りついたように止まった。
そしてブレーキを握ったままこっちをギロリと振り返って言った。
「お前…こんなんで今日一日走ってたのか…?」
今まで見たことのないような険しい表情と声だった。俺は思わずたじろいだ。
このときのバツの悪さは今でも忘れられない。俺はしどろもどろになって答えた。
「あ…朝はちゃんと効いてたんです。でも、どんどん効かなくなって…すいません…。」
264 :半年後:2010/03/04(木) 12:54:30 ID:8/dzONws
「なあ兄さん。俺は言ったよな、ヤな感じがしたら持ってこいって、どうして持ってこなかった?」
優しくて慕ってた学校の先生に厳しく叱られているような感じ、あんな感じだ。俺は懸命に答えた。
「ほ…本当は朝ちょっと変だなって思ったんです。けど…けど気のせいかなって…自信なくて…
今日は本当に忙しくて、それで…言い出せなくて……。」
俺はうつむいて黙ってしまった。
おっちゃんはふうと溜め息を吐くと、俺のほうに向き直って言った。
「なあ兄さん。俺はよ、アンタんとこの単車診さしてもらって十年以上になる。
自慢じゃないが単車ならどんなに壊れたって直してやる。エンジンだろうがミッションだろうがな。」
それは本当だった。
オイルを切らしてブローしたエンジンを下ろし、中古に載せ換えて翌朝にきっちり納車するなんて
ことは当たり前にやってのける人だった。
「でもな、でもな兄さん、あんたの…あんたのその……」
おっちゃんはそこまで言うと色あせたホンダのキャップを深くかぶり、きびすを返して工具を取り、作業を始めてしまった。
265 :半年後:2010/03/04(木) 13:10:45 ID:8/dzONws
最後まで言わなくても、おっちゃんの言いたかったことはいくらバカな俺でもわかった。
「お前の体は修理できねえ。命にはスペアは無えんだ。」
おっちゃんはそう言いたかったに違いなかった。
だけどそれじゃあんまり説教じみていてガラじゃないと思ったのだろう。
おっちゃんはそれきり黙ってしまった。
俺は泣きそうだった。今回の故障におそらくおっちゃんに落ち度は無い。
けどもし、自分の整備しているバイクが故障で事故を起こしたとしたら、
昔堅気のおっちゃんはどれほど気に病むだろう。
俺達が無事会社に還ってくるってことが
おっちゃんのメカニックとしてのプライドを支えているんだ。
おっちゃんだけじゃない。俺と、俺の周りの全ての人達がお互いのプライドを支えている。
そんな当たり前のことを、俺はそのときやっと理解したんだ。
「○×町の信号をダッシュで加速して、120kmまでもっていければ、
△□二丁目の信号を黄色でパスできる。」
そんな馬鹿なことを得意げに語っていた昨日までの自分を俺は本当に恥じた。
266 :半年後:2010/03/04(木) 13:30:48 ID:8/dzONws
「なあ兄さん。コイツはちっと時間かかっからよ、今日はもう帰んな。疲れたろ?
心配すんな。明日の朝までには直して届けといてやっからよ。な?」
そう言って振り向いたおっちゃんの顔はいつもの優しい顔だった。
「お願いします。」
俺は頭を下げて言った。その日はいろいろ考えてしまってあんまり眠れなかった。
翌朝出勤すると、約束通りスパーダは届いていた。
真新しいブレーキホースとマスター、キャリパーも
オーバーホールしたらしくピカピカになっていた。
マスターシリンダーの圧抜け、それが原因だった。非常に稀なことだけれど、
製造時の切り粉や研磨剤といった硬い粒子がどこかに付着して混入してしまうと、
あっというまにシリンダー内を傷つけてしまうのだということだった。
おっちゃんはあの後、もう遅かったけれどディーラーに掛け合って部品を出してもらい、
新品のマスターアッセンを一度バラして入念に洗掃し、
同じくキャリパーも洗掃したあとホースを新品に換えて組み付けたのだという。
それから俺は、ちょっとでも違和感を感じたらすぐおっちゃんの所へ行くようになった。
ただの勘違いのこともあったけど、
実際フロントハブベアリングが割れかけていたときは自分でもびっくりしたなあ。
267 :現在:2010/03/04(木) 13:41:30 ID:8/dzONws
主任からスパーダの話を持ちかけられた時、俺は無性におっちゃんに会いたくなった。
でもちょっと怖かった。だってあれから20年近く経っている。
「?ああ、おっちゃんな。えーと5,6年前かなあ、
息子さんの所へ行くから店たたむって言ってな。」
「ん?ああまだご健在のはずだよ。律儀に毎年年賀状と暑中見舞い来るんだ。
今年も来てたしな。」
おっちゃんはどうしているだろう。
可愛い孫でもひざに乗せて、美味そうにタバコを吸っているだろうか。
後半あんまりスパーダ関係なくてすまん。読んでくれた人ありがとう。
人の優しさ
テーマ:ナケタはなし
2010年03月16日 21時00分
423 :彼氏いない歴774年:2010/03/15(月) 18:05:28 ID:iEk3N0RJ
オフィスビル内のコンビニでバイトしてるんだが、ビルの受付嬢たちがよくお茶とか買いに来る。
そのうちの1人が、小柄でいつもニコニコしてて、当たり前だけど顔も可愛い。
なんかうまく言えないけど「人を傷付けなさそう」な人。安心する雰囲気というか。
顔見知りになってレジで軽く「寒いですね」とか話すようになったある日、
就活でスーツ着て歩いてた時に駅で「喪子さん」って声かけられたら、その人だった。
「就職活動?がんばってるね!」って言われて、
うまくいかなくて心が弱ってたからジーンとして涙ぐんでしまったw
そしたら受付嬢さんが「どうしたの!」って慌てちゃって、なんか流れで居酒屋に行くことになった。
ものすごい励ましてくれた上、面接対策してくれてめちゃくちゃありがたかった…。
「いつも可愛いネイルしてるのに就職活動中は出来なくて淋しいよね」とか言われて、
就活で全然評価されなくて自分は無価値だと自信喪失してたから、
「そんなところまで見てもらえてたのか」とまた泣けてきた。
しかもごちそうになってしまった。しばらくぶりの人の優しさが心に染みた。
バイトで出勤する時に受付の前を通るんだが、受付嬢さんが手を振ってくれるのがひそかに自慢w
オフィスビル内のコンビニでバイトしてるんだが、ビルの受付嬢たちがよくお茶とか買いに来る。
そのうちの1人が、小柄でいつもニコニコしてて、当たり前だけど顔も可愛い。
なんかうまく言えないけど「人を傷付けなさそう」な人。安心する雰囲気というか。
顔見知りになってレジで軽く「寒いですね」とか話すようになったある日、
就活でスーツ着て歩いてた時に駅で「喪子さん」って声かけられたら、その人だった。
「就職活動?がんばってるね!」って言われて、
うまくいかなくて心が弱ってたからジーンとして涙ぐんでしまったw
そしたら受付嬢さんが「どうしたの!」って慌てちゃって、なんか流れで居酒屋に行くことになった。
ものすごい励ましてくれた上、面接対策してくれてめちゃくちゃありがたかった…。
「いつも可愛いネイルしてるのに就職活動中は出来なくて淋しいよね」とか言われて、
就活で全然評価されなくて自分は無価値だと自信喪失してたから、
「そんなところまで見てもらえてたのか」とまた泣けてきた。
しかもごちそうになってしまった。しばらくぶりの人の優しさが心に染みた。
バイトで出勤する時に受付の前を通るんだが、受付嬢さんが手を振ってくれるのがひそかに自慢w
お迎えの時間
テーマ:ナケタはなし
2010年03月15日 01時00分
408 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/17(水) 16:20:04 ID:dBRG5UHq0
うちも共働きで保育園行かせている。
基本嫁の方が仕事上がり早いので迎えは嫁なのだが、
時々早く帰れる日があり息子に「今日はお父さんが○時に迎えに行くよ。」
と言うと「ヤッター!!!!」と喜んでくれる。
昨日も迎えの約束をしたのだが、帰り際仕事がばたつき予定より30分位遅れた。
急いで保育園に着くと、既に帰り支度を済ませた息子が下駄箱のところでふて腐れていた。
そういえばいつも帰り支度を済ませていたな・・・。
先生によると「お父さんのお迎えの日は30分前からお支度して待ってるんですよ(笑)」
ということは1時間も俺を待っていたのか・・・。
嫁の迎えのときは遊びに夢中でなかなか支度しないらしいのに。
次からは時間指定はしないでおこう。
うちも共働きで保育園行かせている。
基本嫁の方が仕事上がり早いので迎えは嫁なのだが、
時々早く帰れる日があり息子に「今日はお父さんが○時に迎えに行くよ。」
と言うと「ヤッター!!!!」と喜んでくれる。
昨日も迎えの約束をしたのだが、帰り際仕事がばたつき予定より30分位遅れた。
急いで保育園に着くと、既に帰り支度を済ませた息子が下駄箱のところでふて腐れていた。
そういえばいつも帰り支度を済ませていたな・・・。
先生によると「お父さんのお迎えの日は30分前からお支度して待ってるんですよ(笑)」
ということは1時間も俺を待っていたのか・・・。
嫁の迎えのときは遊びに夢中でなかなか支度しないらしいのに。
次からは時間指定はしないでおこう。
平手打ち
テーマ:ナケタはなし
2010年03月12日 23時00分
684 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう sage 投稿日:2007/07/29(日) 00:53:15
今年のGW明けの頃のこと。
前の日から上司の機嫌が悪くて、八つ当たりばかりされてた。
その日も私の力ではどうしようもないことで怒られた挙句、基地外呼ばわりされたり
身体的欠陥を突っつかれたりして、本当にこの世が嫌になった。
元々鬱持ちなんで、薬は山ほどあった。
最近の薬は安全だから薬をがぶ飲みしたところで死ぬとは思わなかったけど、とにかく
どうなってもいいやって気持ちで手当たり次第に薬を引っ張り出して、容器からパキパキ
出し始めた。
ひたすらパキパキやってると、いつも薬のパッケージ(?アルミのやつ)で遊ぶのが好きな
うちのぬこさまが音を聞きつけてやってきた。
いつもは寝る前に私が薬を飲んだ後、薬のカラでネコサッカーやるんだけど、その時
私が大量の薬をベッドの上に並べてるのを見て、タタターっと走ってきて
_, ,_ パーン
( ‘д‘)
⊂彡☆))Д´)
てな感じで私の手や顔を平手打ちし、更に並べてあった薬もバラバラに散らばした上で
「みゃお~!!みやあお~~!!」
って鳴きはじめた。
私は一瞬ボーゼンとしてたけど、ぬこさまの異様な鳴き声で家族が何事かと様子を見に来た。
こうして家族にしこたま怒られ、行きつけの病院の先生にもこってりしぼられ、薬がぶ飲み
作戦は失敗に終わった。
でも、私の精神状態を上司の上司が知ることとなり、私に八つ当たりした上司は幹部会議で
晒し上げされたらしい。
それ以来、私が寝る頃になるとぬこさまはどこからかやってきて、私が正当な量だけの薬を
飲んでいるか監視するかのように、横にいてじーっと見てる。
こんな私と一緒にいてくれるぬこさま、本当にありがとう。・゚・(ノД`)・゚・。
今年のGW明けの頃のこと。
前の日から上司の機嫌が悪くて、八つ当たりばかりされてた。
その日も私の力ではどうしようもないことで怒られた挙句、基地外呼ばわりされたり
身体的欠陥を突っつかれたりして、本当にこの世が嫌になった。
元々鬱持ちなんで、薬は山ほどあった。
最近の薬は安全だから薬をがぶ飲みしたところで死ぬとは思わなかったけど、とにかく
どうなってもいいやって気持ちで手当たり次第に薬を引っ張り出して、容器からパキパキ
出し始めた。
ひたすらパキパキやってると、いつも薬のパッケージ(?アルミのやつ)で遊ぶのが好きな
うちのぬこさまが音を聞きつけてやってきた。
いつもは寝る前に私が薬を飲んだ後、薬のカラでネコサッカーやるんだけど、その時
私が大量の薬をベッドの上に並べてるのを見て、タタターっと走ってきて
_, ,_ パーン
( ‘д‘)
⊂彡☆))Д´)
てな感じで私の手や顔を平手打ちし、更に並べてあった薬もバラバラに散らばした上で
「みゃお~!!みやあお~~!!」
って鳴きはじめた。
私は一瞬ボーゼンとしてたけど、ぬこさまの異様な鳴き声で家族が何事かと様子を見に来た。
こうして家族にしこたま怒られ、行きつけの病院の先生にもこってりしぼられ、薬がぶ飲み
作戦は失敗に終わった。
でも、私の精神状態を上司の上司が知ることとなり、私に八つ当たりした上司は幹部会議で
晒し上げされたらしい。
それ以来、私が寝る頃になるとぬこさまはどこからかやってきて、私が正当な量だけの薬を
飲んでいるか監視するかのように、横にいてじーっと見てる。
こんな私と一緒にいてくれるぬこさま、本当にありがとう。・゚・(ノД`)・゚・。
3才の息子ができた日
テーマ:ナケタはなし
2010年03月12日 01時00分
691 :690:2010/03/10(水) 12:23:31
息子の友達が 昨日、遊びに来たのよ。
大学落ちまくって なんとか最後にひっかかって入学許可をもらったらしい。
それで、彼らの話を聞いてる間に俺もいろいろと思いだした。
思いかえせば14年前のこと。
ある日、突然に 28の毒男が、3才の息子ができたのよ。
はじめて会った時、嫁の縮小コピーってかんじだっけな。
電車の中で騒ぐガキがうざいとか
親子連れを見てもイライラしてた自分には
可愛いかったのかと、聞かれても 正直「?」なわけ。
一緒に暮らし始めた頃、
話しかけても、軽く無視をするか嫁の後ろに隠れてた。
たまに、じーっと俺を見てたと思ったら、すっと視線もそらす
保育園に迎えに行っても、ふーんってな顔されたり、
先に駆け出していっちまったり…
まぁ 嬉しいことではないが、そんなしぐさも、
ちょっとおもしろいと思ってた。
嫁の仕事はかなり不規則でハードな仕事なんで
息子は赤さんの頃から、嫁と離れてることには慣れている。
保育園や託児所に、息子を置いて行くときも泣いて嫌がったことは
今までに、一度もないという。エライ自立したガキだと、思った。
692 :690:2010/03/10(水) 12:24:31
お互い変な緊張はなくなったが、態度はかわらぬ息子。
俺も自由気ままにビデオみたり、本をみたり過ごし
息子は息子で、時々、でゅひ!とかボクンとかいいながら
ポケモンを闘わせて妄想の世界で楽しむというかんじ。
だが、いつも 俺の足だったり、背中に、足を乗せてきたり
どっか体をくっつけて遊ぶんだ。俺に気がつかれると、サッと元に戻す。
めんどうくさいんで、膝に乗せてやったら、
俺の顔をいじくるわ、ヒゲそり後のジョリジョリをいつまでもさわってきやがった。
あんまり、うるさいんでコラ!といったら、ニッコリ笑いやがった。
不覚にも 可愛いと思った。
それと、今まで、どんなに寂しい思いを我慢してきたんだろうと考えたら、
ちょっと目から汁がでた。
そんな息子の誕生日。「何が欲しい?」と聞いた。
答えは、「銭湯に行って男湯にはいりたい」だった。
もちろん、露天風呂のついた銭湯へ!
それからは、風呂を入れるのは俺の役目となった。
少々、窮屈なのは我慢しよう。
ただ、珍しがって股間を覗くのは、犯罪行為だと注意した。
しばらくして、嫁の仕事も落ち着き、生活に慣れてきた頃、
息子を預けて、北海道に新婚旅行に行くことになった。
荷物は、すでに送っていよいよ出発となった。
嫁はすごく楽しみにしてたし、満足してた。
だが、空港に着くなり、俺がダメになった。
飛行機が落ちたらなんて、今まで考えたこともない事が浮かぶ。
息子の顔のナキベソが浮かぶ。
天候のせいで便が遅れているというアナウンスに反応してしまい
その勢いでキャンセルしちまった。
ついつい、払い戻しで伊豆行きの特急券を購入しちまった、3人分。
「イドリコ、イドリコ」とはしゃぐ息子。踊り子号だバカタレ!
693 :690:2010/03/10(水) 12:27:28
それから、ちょっと成長して、息子が夢中になったのは
ザリガニ。俺の職場と自宅は歩いて5分のところ。
昼休みの時間を見計らって、息子が現れる。
バケツ一杯のザリガニだったり、ダンゴムシだったり、カメムシだったりを自慢しに来る。
かなり面食らうが、今日は何だろうと…ひそかな楽しみでもあった。
周りから、カワイイといえるのは、今のうちだよと、強迫めいた言葉を
尻目に、ランドセルに背負われて入学式。
俺もからかいネタの収集のために参加したよ。
この頃より、夢中になったのは 映画。
映画は、のびたの…とか、しんちゃんの…には、行きたがらない。
アニメといっても、宮崎アニメ
俺の好みの洋画にばっちし、バッティングしてきた。
スターウォーズ ロスト・ワールド メン・イン・ブラック GODZILLA
なかでも、スターウォーズは、ヲタク並み。
ロスト・ワールドの影響で、考古学者になりたいだと吠えだした。
なので、軽く夢を潰しに、いわきや多治見に化石堀の困難さを経験させに連れて行った。
帰りに、あまりの興奮で熱だしやがったけどな。
学校では、おきまりの学級崩壊やイジメなどの問題が山積み。
当事者になるには、弱虫すぎるので安心していたが、
巻き込まれて、泣きをみるのではないかと心配した。みごと的中!
友達の高級品紛失事件。ふてくされてひとりで登校拒否するなんぞ
百年早いわ!しょうがないから、有給休暇という出社拒否をしてやった。
ついでに、出始めたばかりのDVDレコーダーを買いにいって、
キレイな画像を一緒に初体験したっけね。
ま、それも担任の先生が息子の事をよくわかってくれたから
たった3日のお楽しみに終わったけどね。毛が薄くなった気がしたよ。
694 :690:2010/03/10(水) 12:30:13
中学校になったら、ライトセーバーを振り回したかったのか
剣道に夢中になりやがった。
こっちもつられて、剣道アニメとかにはまちゃったりしちゃったヨ。
でも、助かったよ 竹刀を喧嘩の道具じゃないとか、剣の道とか言い出したり
ヘナチョコ剣士で負けては凹んでたけど、剣筋はキレイだった。
そういえば、剣道は勝ち負けじゃないってイイワケも格好よかったゼ!
高校受験も、肝冷やしたよ。
中学ぐらいだったらなんとか教えられると思ってた俺だったけど
教える能力が皆無だったことに気がついた。よく、喧嘩したな。
アタマは悪くないだろうけど、やる気スイッチがみつからなかったね。
最後の手段でカテキョに任してしまったけど、よく頑張った!
695 :690:2010/03/10(水) 12:31:14
高校時代はの息子は、何を考えてるのかわかんなかったよ。
ネトゲにはまってみたり、あんまり楽しそうなんで、
つい俺もやっちまったじゃないか。
「おとん!エヴァは面白い!」と、なんだかわからんうちに
映画に連れて行かれたな。みごと、はまった俺。
だが、修学旅行の土産に…アスカのフィギュアはちと痛い。
ちなみに、レイちゃんのが好みだ。
高校生になって、クソ生意気なこといいながらも、足癖は直らない。
わざわざ俺の部屋にWiiを持ち込んで大剣で狩りをする。
足は相変わらず、俺の足の上。笑っちまうゼ。
それに、あれだぞ…ネットのネタだったとはいえ、歴史や社会情勢で
息子と討論するなんて、想像できなかったよ。
「やらない善よりやる偽善」とか、目が点になった。
最近だと、国母くんの問題。
俺が、ああいう格好は見慣れたもんだし、壮行会中止はやりすぎだと言ったら、
記者会見の態度がいけない。思っても口に出したりしないのがオトナ。
んん?? ・・・完敗
来月で、19歳になる息子。
背もみごとに追い抜かされた。アタマを叩くこともままならぬ。
躾とか、人生を教えるとか、父親としての自信なんて、
かけらもなかったが、息子が父親に育ててくれた気がする。
俺が未熟なんだからできっこなかったしね。
反対に、俺が学んだことが多かったな。
泣いたり、怒ったり、喧嘩したり、理不尽なこともあったが、
子育ては、十分 楽しませてもらった気がする。
あと、1年で成人。オトナになっちまうんだな。
俺も子離れしないといけないな。
息子の友達が 昨日、遊びに来たのよ。
大学落ちまくって なんとか最後にひっかかって入学許可をもらったらしい。
それで、彼らの話を聞いてる間に俺もいろいろと思いだした。
思いかえせば14年前のこと。
ある日、突然に 28の毒男が、3才の息子ができたのよ。
はじめて会った時、嫁の縮小コピーってかんじだっけな。
電車の中で騒ぐガキがうざいとか
親子連れを見てもイライラしてた自分には
可愛いかったのかと、聞かれても 正直「?」なわけ。
一緒に暮らし始めた頃、
話しかけても、軽く無視をするか嫁の後ろに隠れてた。
たまに、じーっと俺を見てたと思ったら、すっと視線もそらす
保育園に迎えに行っても、ふーんってな顔されたり、
先に駆け出していっちまったり…
まぁ 嬉しいことではないが、そんなしぐさも、
ちょっとおもしろいと思ってた。
嫁の仕事はかなり不規則でハードな仕事なんで
息子は赤さんの頃から、嫁と離れてることには慣れている。
保育園や託児所に、息子を置いて行くときも泣いて嫌がったことは
今までに、一度もないという。エライ自立したガキだと、思った。
692 :690:2010/03/10(水) 12:24:31
お互い変な緊張はなくなったが、態度はかわらぬ息子。
俺も自由気ままにビデオみたり、本をみたり過ごし
息子は息子で、時々、でゅひ!とかボクンとかいいながら
ポケモンを闘わせて妄想の世界で楽しむというかんじ。
だが、いつも 俺の足だったり、背中に、足を乗せてきたり
どっか体をくっつけて遊ぶんだ。俺に気がつかれると、サッと元に戻す。
めんどうくさいんで、膝に乗せてやったら、
俺の顔をいじくるわ、ヒゲそり後のジョリジョリをいつまでもさわってきやがった。
あんまり、うるさいんでコラ!といったら、ニッコリ笑いやがった。
不覚にも 可愛いと思った。
それと、今まで、どんなに寂しい思いを我慢してきたんだろうと考えたら、
ちょっと目から汁がでた。
そんな息子の誕生日。「何が欲しい?」と聞いた。
答えは、「銭湯に行って男湯にはいりたい」だった。
もちろん、露天風呂のついた銭湯へ!
それからは、風呂を入れるのは俺の役目となった。
少々、窮屈なのは我慢しよう。
ただ、珍しがって股間を覗くのは、犯罪行為だと注意した。
しばらくして、嫁の仕事も落ち着き、生活に慣れてきた頃、
息子を預けて、北海道に新婚旅行に行くことになった。
荷物は、すでに送っていよいよ出発となった。
嫁はすごく楽しみにしてたし、満足してた。
だが、空港に着くなり、俺がダメになった。
飛行機が落ちたらなんて、今まで考えたこともない事が浮かぶ。
息子の顔のナキベソが浮かぶ。
天候のせいで便が遅れているというアナウンスに反応してしまい
その勢いでキャンセルしちまった。
ついつい、払い戻しで伊豆行きの特急券を購入しちまった、3人分。
「イドリコ、イドリコ」とはしゃぐ息子。踊り子号だバカタレ!
693 :690:2010/03/10(水) 12:27:28
それから、ちょっと成長して、息子が夢中になったのは
ザリガニ。俺の職場と自宅は歩いて5分のところ。
昼休みの時間を見計らって、息子が現れる。
バケツ一杯のザリガニだったり、ダンゴムシだったり、カメムシだったりを自慢しに来る。
かなり面食らうが、今日は何だろうと…ひそかな楽しみでもあった。
周りから、カワイイといえるのは、今のうちだよと、強迫めいた言葉を
尻目に、ランドセルに背負われて入学式。
俺もからかいネタの収集のために参加したよ。
この頃より、夢中になったのは 映画。
映画は、のびたの…とか、しんちゃんの…には、行きたがらない。
アニメといっても、宮崎アニメ
俺の好みの洋画にばっちし、バッティングしてきた。
スターウォーズ ロスト・ワールド メン・イン・ブラック GODZILLA
なかでも、スターウォーズは、ヲタク並み。
ロスト・ワールドの影響で、考古学者になりたいだと吠えだした。
なので、軽く夢を潰しに、いわきや多治見に化石堀の困難さを経験させに連れて行った。
帰りに、あまりの興奮で熱だしやがったけどな。
学校では、おきまりの学級崩壊やイジメなどの問題が山積み。
当事者になるには、弱虫すぎるので安心していたが、
巻き込まれて、泣きをみるのではないかと心配した。みごと的中!
友達の高級品紛失事件。ふてくされてひとりで登校拒否するなんぞ
百年早いわ!しょうがないから、有給休暇という出社拒否をしてやった。
ついでに、出始めたばかりのDVDレコーダーを買いにいって、
キレイな画像を一緒に初体験したっけね。
ま、それも担任の先生が息子の事をよくわかってくれたから
たった3日のお楽しみに終わったけどね。毛が薄くなった気がしたよ。
694 :690:2010/03/10(水) 12:30:13
中学校になったら、ライトセーバーを振り回したかったのか
剣道に夢中になりやがった。
こっちもつられて、剣道アニメとかにはまちゃったりしちゃったヨ。
でも、助かったよ 竹刀を喧嘩の道具じゃないとか、剣の道とか言い出したり
ヘナチョコ剣士で負けては凹んでたけど、剣筋はキレイだった。
そういえば、剣道は勝ち負けじゃないってイイワケも格好よかったゼ!
高校受験も、肝冷やしたよ。
中学ぐらいだったらなんとか教えられると思ってた俺だったけど
教える能力が皆無だったことに気がついた。よく、喧嘩したな。
アタマは悪くないだろうけど、やる気スイッチがみつからなかったね。
最後の手段でカテキョに任してしまったけど、よく頑張った!
695 :690:2010/03/10(水) 12:31:14
高校時代はの息子は、何を考えてるのかわかんなかったよ。
ネトゲにはまってみたり、あんまり楽しそうなんで、
つい俺もやっちまったじゃないか。
「おとん!エヴァは面白い!」と、なんだかわからんうちに
映画に連れて行かれたな。みごと、はまった俺。
だが、修学旅行の土産に…アスカのフィギュアはちと痛い。
ちなみに、レイちゃんのが好みだ。
高校生になって、クソ生意気なこといいながらも、足癖は直らない。
わざわざ俺の部屋にWiiを持ち込んで大剣で狩りをする。
足は相変わらず、俺の足の上。笑っちまうゼ。
それに、あれだぞ…ネットのネタだったとはいえ、歴史や社会情勢で
息子と討論するなんて、想像できなかったよ。
「やらない善よりやる偽善」とか、目が点になった。
最近だと、国母くんの問題。
俺が、ああいう格好は見慣れたもんだし、壮行会中止はやりすぎだと言ったら、
記者会見の態度がいけない。思っても口に出したりしないのがオトナ。
んん?? ・・・完敗
来月で、19歳になる息子。
背もみごとに追い抜かされた。アタマを叩くこともままならぬ。
躾とか、人生を教えるとか、父親としての自信なんて、
かけらもなかったが、息子が父親に育ててくれた気がする。
俺が未熟なんだからできっこなかったしね。
反対に、俺が学んだことが多かったな。
泣いたり、怒ったり、喧嘩したり、理不尽なこともあったが、
子育ては、十分 楽しませてもらった気がする。
あと、1年で成人。オトナになっちまうんだな。
俺も子離れしないといけないな。




